DXを入れたのに、問い合わせが増えない。何かが足りない気がする。でも、何が足りないかがわからない
相談員さんから突然、電話があったんです。『毎月の報告、すごく読みやすくて。ご家族からも同じことを言われていて』と
私たちが最初に変えたのは、業務じゃなかったんです。送る言葉の質だったんです
タブレットを買った。記録ソフトを入れた。ICTという言葉を職員会議で出した——でも、何も変わらなかった。問い合わせの電話は増えず、見学に来る家族の顔は変わらず、相談支援専門員との関係は去年と何も違わなかった。
この感覚を持っている経営者・管理者は、決して少なくない。DXを入れた最初の半年は、どの事業所も似たような停滞感を味わう。そこから抜け出した1つの事業所の実話をお伝えしたい。
あの施設が最初に変えたのは、業務ではなかった。
DXを入れた。でも、何も変わらなかった
「何かが足りない。でも、何が足りないかわからない」——この感覚を言葉にできる経営者は意外と少ない。ツールを入れること自体は間違っていない。ただ、ツールを入れただけでは、外の世界には何も伝わっていない。
現場では「また新しいことが始まった」という空気が漂い、職員はシステムの操作を覚えることで精一杯になる。経営者は「あとは現場に任せよう」と思い、半年が経つ。気づいたときには、導入前と何も変わっていない日常に戻っている。
2026年度の報酬改定でICT加算の算定要件が明確化され、「やらなければ」というプレッシャーは業界全体で高まっている。加算を取ることと、選ばれる施設になることは、まだ別の話だ。選ばれる理由が、静かに変わり始めている。
相談員が自ら電話してきた——ある事業所で起きた1つの変化
埼玉県内の就労継続支援B型事業所(定員20名・スタッフ8名)の話をしたい。固有名詞は伏せるが、事実に基づいた話だ。
2025年4月にタブレットと業務支援システムを導入。半年後、管理者のMさんが「このままではまずい」と感じたのは、相談支援専門員との定期会議でのひとことがきっかけだった。
「毎月送ってもらってる活動報告、見てはいるんですが……内容がちょっと薄くて」
Mさんはその夜、直近3ヶ月の報告書を読み直した。「作業参加。体調良好。」——どの利用者の記録も、ほとんど同じ文言だった。どれだけ丁寧な支援をしても、外に届かなければ、届いていないことと変わらない——Mさんがその夜、報告書を読み直して感じたのはそれだった。
翌月から、Mさんは1つだけ変えることにした。
変えたのは「送る言葉の質」だけだった
AIを使って、活動報告の言葉を変える。「作業参加。体調良好。」を、「田中さんは今日、折り紙作業に45分間集中して取り組み、30個を丁寧に仕上げました。先月比で集中時間が15分延びています」に変える。毎朝30分、その日の支援記録をもとにAIへ指示を出し、利用者一人ひとりの様子を具体的な言葉に書き直した。変えたのは、ただそれだけだ。
その冬、地域の相談支援専門員から、Mさんに自発的な電話があった。
「御社から毎月届く報告、すごく読みやすくて。利用者さんの様子が目に見えるようで。実は、ご家族からも同じことを言われていて——今月、新しい方をご紹介できそうなんですが」
相談員が動いたのは、Mさんが特別な営業をかけたからではない。送り続けた言葉の質が変わったから、それだけだ。問い合わせ件数はその後2ヶ月で3件→9件、相談員との自発的な接触頻度は月平均0.3回→2.1回に変化した。(※Happiter研修受講事業所の平均値)
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その差が生まれた構造——DXが信頼の可視化装置として機能した瞬間
なぜ、言葉の質が変わっただけで、外からの反応が変わったのか。
相談支援専門員は、多くの事業所と関わっている。その中で「この事業所に紹介したい」と思う理由はシンプルだ——支援の中身が「伝わっている」かどうかだ。相談員が判断材料にできるのは、毎月届く報告の質だけ。「体調良好」「参加」で終わる報告は、情報として機能していない。
Mさんが変えたのは、AIを使って「中で起きていることを、外に届く言葉に変換するプロセス」だった。ツールの話ではない。情報の届き方の話だ。
ICT加算の先にある「伝わる記録」という視点
2026年度改定でICT加算の算定が実務フェーズに入った今、記録を電子化する事業所は急速に増えている。ただ、記録を電子化することと、記録の言葉が「受け取る側に届くもの」になることは、まったく別の話だ。
加算の算定要件は満たせる。でも、毎月の報告を読んだ相談員が「この施設に紹介したい」と思えるかどうかは、また別の基準で決まる。選ばれる理由が、静かに変わり始めている。
自施設に当てはめる3つの問い
Mさんの事業所に、特別な条件があったわけではない。大切なのは、自施設の現状と照らし合わせることだ。以下の3つの問いを、今週の会議のアジェンダにしてみてほしい。
問い① 今、施設から外に届いている情報の「質」を、あなた自身は読んだことがあるか?
毎月の活動報告、モニタリング資料、連絡帳——それを受け取った相談支援専門員が「この施設に任せたい」と感じる情報になっているか。作り手ではなく、受け取り手の目で読んだことがあるだろうか。
問い② 施設の「日常」を、外の人が想像できる言葉で伝えているか?
利用者がどんな表情で、どんな場面で変化したか——その細部が言葉になって届いているか。「参加しました」「良好でした」は事実だが、情報とは言えない。「事実」と「伝わる情報」の間には、大きな距離がある。
問い③ ICTやAIは、「業務を楽にするため」だけに使っているか?
効率化はもちろん大切だ。ただ、その効率化が外への「伝わり方」にもつながっているかどうか、確認したことがあるだろうか。「楽になった」の先に、「伝わるようになった」があるかどうかが分岐点だ。
自施設の報告書が相談員に届く言葉になっているかどうか——まずその問いに向き合うための「伝わる記録チェックリスト」をHappiterでは用意している。一度点検するところから、一緒に始めよう。
DXの目的を、もう一度定義し直す
DXは、業務を変えるためのものではない。業務が変わること自体は、通過点だ。
その先に何があるか——それは、あなたの施設が「支援している事実」を、外の世界に届ける言葉を持てるかどうかだと、私は考えている。
選ばれる施設は、DXで業務を変えたのではなく、信頼の伝わり方を変えた。
今週、自施設の報告書を1枚だけ開いてみてほしい。相談支援専門員の目で読んだとき、「この施設に紹介したい」と思えるか——それが、最初の問いになる。
この記事は Happiter株式会社 代表取締役 茂呂史生 が福祉×AI×ICT 研修の現場経験をもとに執筆しました。数字や事例は受講事業所さまの実例を一般化したもので、個別の状況によって異なります。あなたの事業所に合った進め方は、ぜひ 無料相談 でお聞かせください。
2026年度報酬改定の実運用が本格化している今、ICT加算の算定だけを目標にしても施設間の差はつかない。伝わる記録をつくる仕組みを持っているかどうかが、これからの分岐点になる。補助金の事後報告や加算算定の説明を求められたとき、「入れました」ではなく「こう変わりました」と語れる施設が、次のフェーズで選ばれていく。
Happiterでは、DXが選ばれることに直結しているかどうかを自施設で確認できる「伝わる記録チェックリスト」を用意している。自施設の報告書が相談員に届く言葉になっているかどうか——まずその問いに向き合うところから、一緒に始めよう。