相談員には、紹介したい気持ちがあった。ただ、伝える言葉がなかった。

DXが変えたのは業務効率ではなく、施設の『見え方』だった。

誤算を正直に書かないと、再現性が消える。

「なぜ相談員は、あなたの施設を紹介できないのか」——この問いを立てた瞬間から、見えていなかったものが見え始めた。施設を知らないからではない。伝える材料が手元にないからだ。

この記事は、ある事業所グループでDXを導入してから1年間、相談員・家族・職員それぞれの評価がどう変化したかを記録したものだ。稼働率・見学数・紹介数の月次推移と、途中でうまくいかなかった施策の修正過程も含めて書く。

2026年10月現在、年度後半を迎えた障害福祉事業所の多くが稼働率の見直しに差し掛かっている。来年度の計画に向けて何かひとつ動けるとしたら何か——その判断材料として使ってほしい。


相談員が施設を説明できなかった理由——構造の問題

月に一度、近隣の相談支援事業所に顔を出していた。それでも、稼働率は定員の70〜72%あたりをずっとさまよっていた。

転機は、ある担当相談員からの正直な言葉だった。「施設さんのことを紹介したいんですけど、利用者さんやご家族に聞かれたとき、どんなことをやっているかを細かく説明できなくて……」

なぜ、相談員は施設を説明できなかったのか。意欲の問題ではない。関係性の問題でもない。施設側が「伝えるための情報」を相談員に渡せていなかったからだ。

相談員は、複数の施設を同時に担当している。利用者に「あの施設はどんなところ?」と聞かれたとき、答えられる施設と、答えられない施設がある。答えられない施設は、紹介されない。それだけの話だった。

努力の量の問題ではなく、情報の構造が問題だった。これが、すべての出発点になる。

DXで変えた3つの施策——記録・情報発信・家族連絡

具体的に変えたのは3つだ。どれも「新しいシステムを入れる」という話ではなく、「見えなかったものを見えるようにする」という目的で設計した。

①支援記録のデジタル化

紙だった日々の支援記録をタブレット入力に切り替えた。ただの省力化ではない。記録が蓄積されることで、利用者一人ひとりの「得意なこと」「変化のタイミング」「目標達成の瞬間」が検索・共有できるデータになった。相談員に「この利用者さんはこういう方です」と説明するとき、記録が根拠になる。

②施設通信の定期配信

月1回、相談員向けに「施設通信」をPDFで送り始めた。内容は、利用者の小さな成長の記録、新しく取り組んだプログラム、写真付きの作業紹介。活動報告ではなく「今ここで何が起きているか」を伝えることだけを意識した。A4一枚、読むのに2分かからない量を守った。

③家族連絡のデジタル化

家族への連絡を連絡帳アプリに移行した。日々の様子が写真つきで届くようになり、「子どもの顔が見えるようになった」という反応が増えた。見学前にすでに施設のことを「知っている」家族が来るようになったのは、この施策が効いていた。

相談員の反応が変わった——紹介数と発言の変化

施設通信を送り始めて2か月目あたりから、相談員の電話の内容が変わり始めた。「先月の通信に書いてあった○○のプログラム、うちの利用者さんに向いているかもしれなくて」という問い合わせが来るようになった。

紹介数の月次推移を記録し始めたのはDX導入から4か月後のことだが、数字を残しておいてよかったと思う。

ただし、紹介数が増えた理由は通信だけではなかった。ある相談員から直接聞いた言葉が印象に残っている。「前は施設のことをうまく説明できなかったけど、通信があると利用者さんに見せながら話せるから、ずっと楽になりました」。

相談員にとって「紹介したくなる施設」は、「紹介しやすい施設」だった。伝える材料を渡すことが、紹介数を増やす最短ルートだったのだ。

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家族・利用者候補の目線が変わった——見学増加の理由

見学申込数の変化は、稼働率の変化より少し遅れてやってきた。

数字より印象的だったのは、見学時の質問の変化だった。以前は「何時から何時まで開いていますか」「交通費は出ますか」といった基本確認が多かった。

導入後は「連絡帳アプリで見た○○の作業、うちの子もできそうですか」「先月の写真に写っていた方たちは、どんな利用者さんですか」という質問が増えた。見学に来る前から、施設のことを具体的に知った上で来てくれている。

「選んでいる気」で来る家族は、見学後の契約率も高い。事前情報があることで、見学の場が「確認の場」になる。初めての出会いではなく、すでに「知っている場所」への訪問になるからだ。

職員の働き方と施設への誇りが変わった——内側の外部評価

意外だったのは、職員の変化だった。これは当初まったく想定していなかった。

デジタル記録になって紙の作業が減った。それだけでなく、自分の記録がデータとして蓄積されていくことで、「自分がやっていることが残っていく」という感覚が生まれたようだった。ある職員は、家族へのアプリ連絡の返信をとても楽しみにするようになった。「今日の写真、すごく喜んでもらえた」という話を、ミーティングで自然に話し始めた。

採用への波及は、まったく予想していなかった成果だった。

「スタッフの方が楽しそうに働いているのを見て応募しました」という声が来るようになった。施設の発信が外部の目に触れ、職員の姿が採用候補者に届いていた。職員の誇りが、施設の評判を外に運んでいたのだ。

誤算と修正——相談員・家族への影響から振り返る

正直に書く。うまくいかなかったことが、少なくとも2つあった。この部分を省略すると、再現性が失われる。

誤算①:SNS投稿を職員に分担させようとしたこと

Instagramへの投稿を現場職員に分担しようとした。「得意な人がやればいい」という軽い判断だった。3か月後、投稿が止まっていた。

問題は業務負担だけではなかった。発信が途絶えたことで、施設通信以外の情報提供がなくなり、相談員への接点が月1回だけになった。「最近、動いていますか?」と確認の電話が来るようになったとき、気づいた。定期的な発信が積み上げていた「今も活発に動いている」という印象は、止まることで静かに崩れていく。外部評価は、戻すのに来るまで以上の時間がかかった。

投稿内容のテンプレートを作り、記録から自動的に素材を取り出す仕組みに変えた。職員が「作る」ではなく「承認する」だけで済む設計にしてから、発信が再び止まらなくなった。継続できる仕組みかどうかを、最初の問いにすべきだった。

誤算②:家族全員がアプリを使えると想定したこと

スマートフォンを持っていない、アプリの操作が難しい、という家族が一定数いた。「デジタルにすれば便利」という思い込みが、連絡の途切れを生んだ。

その影響は静かに出た。クレームが来るわけでも、問い合わせが来るわけでもない。ただ、後から振り返ると、連絡が届かなかった家族からの見学申込がその時期だけ来ていなかった。情報が届かなかった家族は、施設を「知らない」まま時間が過ぎた。見えない離脱は、気づくのが遅れる分だけ痛い。

デジタルと紙の並行運用期間を設けた。移行を急がず、家族のペースに合わせる設計にした。全員が同じペースで動けるわけではない——これは福祉の現場では当然のことのはずなのに、DXになると忘れてしまいがちだ。

『選ばれる施設』の正体——可視化と継続のメカニズム

1年間の変化を振り返ると、外部評価が動いたタイミングはいずれも「施設の中が外から見えるようになった」瞬間と重なっていた。相談員が通信を手に利用者へ見せられるようになったとき。家族がアプリで写真を見て、見学前から子どもの居場所を想像できるようになったとき。職員の楽しそうな姿が採用候補者の目に届いたとき。

ひとつ確認してみてほしいことがある。直近1か月で、相談員から自発的な問い合わせが来たことがあるか。見学後の契約率は、感覚でいいので何割くらいか。この2つにすぐ答えられない施設は、外部からまだ「見えていない」可能性がある。

Happiterでは、可視化の設計から継続的な発信の運用まで、全20回の研修プログラムを提供している。「相談員に施設を伝えられていない」「見学は来るのに契約につながりにくい」——そうした課題を持つ事業所のために、何をどう続けるかを一緒に考える場だ。

「選ばれる施設」とは、特別なことをしている施設ではない。外部の人が「知っていて、信頼している」施設だ。その知識と信頼は、継続的な可視化によってしか積み上がらない。

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この記事は Happiter株式会社 代表取締役 茂呂史生 が福祉×AI×ICT 研修の現場経験をもとに執筆しました。数字や事例は受講事業所さまの実例を一般化したもので、個別の状況によって異なります。あなたの事業所に合った進め方は、ぜひ 無料相談 でお聞かせください。

施設の価値は、中にある。でも、外に見えなければ評価されない。DXが変えるのは業務ではなく、「施設が見える構造」そのものだ。

あなたの施設は、相談員に5分で説明できますか——まずは自施設の現状を確かめたい方は、kirokujitanのチェックリストを使ってみてほしい。相談員に施設を正確に伝えられているかどうかを、自分で確認できる。そこから始めるのが、一番早い。